大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成4年(ラ)845号 決定 1992年11月25日

当事者の表示 別紙当事者目録のとおり

主文

原決定を取り消す。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二そこで判断するに、記録によれば、抗告人らが、本件仮差押申立の被保全権利として主張するところは、株式会社講談社(第三債務者、以下「講談社」という。)の社員で、同社発行の週刊雑誌「週刊現代」の編集長である相手方森岩弘が、平成四年二月一七日発行の「週刊現代」に抗告人学校法人日本大学の総長である抗告人Aに巨額の使途不明金の疑惑があるとの悪意と虚偽に満ちた記事(以下「本件記事」という。)を同人の写真入りで大々的に掲載し、かつ、同日以降、同誌の電車内吊広告や各種新聞紙上の広告に同様の見出しを付して本件記事を全国的に宣伝し、もって、抗告人らの社会的名誉と信用を毀損し、これによって抗告人らに精神的損害、弁護士費用及び通信費等相当額の損害が生じたものとして、これら抗告人らの相手方森岩に対して有する損害賠償請求権が本件仮差押申立の被保全権利であるというのである。もとより、本件仮差押申立では、債務者として編集長森岩だけを相手方としているが、準備中の本案訴訟では、相手方森岩に対すると共にその使用者である講談社に対しても損害賠償請求の訴えを提起すべく準備中であることが、その主張するところからも明らかである。

三ところで、仮に、講談社の社員である相手方森岩が本件記事を掲載したことが名誉毀損行為にあたり、抗告人らに対する関係で両者の不法行為が成立するとしても、これにより負担することになる講談社と同社の社員森岩の、抗告人らに対する不法行為に基づく損害賠償債務なるものは、同一給付を目的とするものの各人が独立に負担するもので、いわゆる不真正連帯債務であると解されるものであって、もとより相互に検索の抗弁をもたないものである。したがって、双方のいずれかにより債権者に対して債務全額の弁済がされ当該損害賠償請求権が消滅しない限り、債権者において一方の債務者に対してだけ損害賠償の請求をしても、また、双方の債務者に対して並行して損害賠償の請求をしても、なんら支障はなく、また、たとえ、右債務者各人に対する損害賠償請求の訴えが、同一裁判所に係属し、両者が併合審理されたとしても、両請求に対する判決の結論は、必ずしも一致するわけではなく、往々、区々になることがあるものである。

したがって、他の一方の弁済や強制執行による債権者満足の実現が真近に確実なものとなっているといったような特段の事情でも認められない限りは、右債務の性質上、早晩、本案訴訟になれば被告と目されている使用者である講談社とその被用者である相手方森岩のうち、本件仮差押申立の債務者とするのは、その一方だけでも、双方でも、債権者の選択により可能であることはもとより、その保全の要件の有無についても、各人につきそれぞれ、疎明され、判断されてしかるべきである。そして、右のような特段の事情があるとは、記録に現れた全資料によっても、また、本件争訟の形態に照らしても、およそ認めることはできないのである。

四そうすると、これと異なる見解のもとに、本件仮差押申立の保全の必要性につき、本件債務者の使用者である申立外講談社に十分な資力があることをもって、本件申立の債務者とされている同社の被用者たる森岩について、さらに本件仮差押の保全の必要性その他保全の要件の具備につき疎明させ、十分な審査することなく、本件仮差押の申立を却下した原決定には重大な誤りがあり、取消を免れないものといわざるをえず、さらに原審裁判所において審理を尽くさせるべく、本件を原決定を発した東京地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 伊藤瑩子 裁判官 福島節男)

別紙当事者目録

抗告人(債権者) 学校法人 日本大学

代表者理事長 柴田勝治

抗告人(債権者) A

右抗告人両名代理人弁護士 高石義一

同 宮﨑乾朗

同 大石和夫

同 玉井健一郎

同 板東秀明

同 京兼幸子

同 金斗福

同 辰田昌弘

同 関聖

同 岡本哲

被抗告人(債務者) 森岩弘

別紙抗告の趣旨

一、原決定を取消す。

二、本件を東京地方裁判所に差戻す。

との裁判を求める。

抗告の理由

一、総説

原決定が、本件申立てを却下した理由は以下のとおりである。

「本件疎明資料によれば、株式会社講談社は、債務者の使用者であり、債務者が本件記事を掲載したことは、同社の事業の執行として行われたものであることが一応認められ、また、同社が前記請求債権を保全するに足りる資力を有していることについては、債権者らもこれを争わないことが明らかである。

ところで、民法七一五条一項の規定は、主として、使用者が被用者の活動によって利益をあげる関係にあることに着目し、利益の存するところに損失をも帰せしめるとの見地から、被用者が使用者の事業活動を行うにつき他人に損害を加えた場合には、使用者も被用者と同じ内容の責任を負うべきものとしたものであって、使用者の責任と被用者の責任とは、いわゆる不真正連帯債務の関係に立つものと解すべきであるが、右のような同項の規定の趣旨に照らせば、被用者が使用者の事業の執行につき他人に損害を加えた場合には、被害者との関係においては、使用者と被用者とは一体をなすものとみて、使用者は被用者と同じ内容の責任を負うべきものと解するのが相当である。

そうすると、被害者が、被用者が使用者の事業の執行につき損害を加えたとして、被用者に対する損害賠償請求権を保全すべく、被用者の財産に仮差押えをするためには、使用者の無資力を疎明する必要があるものというべきであり、使用者が右損害賠償請求権を保全するに足りる資力を有するときは、あえて被用者の財産について仮差押えをする必要性はないといわなければならない。

よって、使用者である株式会社講談社が前記請求債権を保全するに足りる資力を有する本件においては、被用者の給料等の債権の仮差押えを求める本件申立ては、保全の必要性がないものというべきであるから、これを却下するものとする」

としている。

この決定は不真正連帯債務の構造・政策的妥当性・使用者責任の構造について、決定的な誤解があり、取消されるべきものであることが明らかである。

以下、その理由を詳述する。

二 不真正連帯債務の構造

1 不真正連帯債務の構造

(一) 不真正連帯債務は、数人が負担する同一給付を目的とする債務であって、共同の目的を達する為に負担するものではないものをいう。不真正連帯債務は連帯債務と異なるのでその効力については、連帯債務に関する規定が適用できず、民法に何らの規定がないので、理論によってこれを決めるほかない。そのような不真正連帯債務の効力としては、次のようなものが挙げられている。

① 債権者は、債務者の一人に対し又は同時もしくは順次に総債務者に対して全部又は一部の履行を請求することができる。

② 債務者の一人について生じた事項は相対的効力のみを生ずるのが原則であるが、例外として、弁済、代物弁済、供託、相殺等債権者の満足を生じる事項は絶対的効力を生じる。

(二) この不真正連帯債務を他の多数当事者の債権関係である保証債務、連帯保証債務及び連帯債務と比較してみると次のとおりである。

(1) 保証債務は、主たる債務とは別個の債務であるものの、主たる債務の担保を唯一の目的とすることから、主たる債務に従たるものとして、次のような附従性を有する。

① 主たる債務が無効であるか、又は、取り消されたときは、保証債務も無効である。

② その態様において主たる債務より重いものであってはならない。

③ 主たる債務者に生じた事項は、原則としてすべて保証人について効力を及ぼす。

また、保証債務は、主たる債務が履行されない場合に第二次的に履行すべき債務であって、催告の抗弁及び検索の抗弁が認められる(補充性)。

(2) 連帯保証債務は、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担するものであり、普通の保証債務と異なり補充性がない点で普通の保証債務と比較して主たる債務からの独立性が高い。

もっとも、連帯保証債務も保証債務であることから附従性は維持しており、しかも、主たる債務者と連帯して債務を負担する結果、この附従性に反しない範囲で連帯債務に関する規定が準用されるので、連帯保証人に対する請求が主たる債務者についても効力を及ぼすこととなる点で主たる債務と連帯保証債務は互いに密接な関係を有することになる。

(3) 連帯債務は、保証債務(連帯保証債務を含む。)におけるような附従性はなく、保証債務(連帯保証債務を含む。)と比較して各債務の独立性が高い。

もっとも、連帯債務にあっては、各債務者間に「共同の目的を達する為にする」という主観的共同関係があり、その結果として、債務者の一人について生じた事由は、一定の範囲において、他の物にも影響を及ぼし(民法四三二条ないし四三九条)、また、内部的に負担部分が定まり、互いに共同して出損を分担すべきものとされている。この点において、なお、各連帯債務は互いに密接な関係を有している。

(4) このように普通の保証債務、連帯保証債務及び連帯債務は、この順序でその独立性が高まる。不真正連帯債務は、保証債務(連帯保証債務を含む。)の特徴である附従性がなく、また、連帯債務と異なって債務者間の主観的共同関係がないから、債務者の一人について生じた事由は、債権の満足意外に影響を及ぼさない。したがって、不真正連帯債務は、普通の保証債務又は連帯保証債務はもちろんのこと連帯債務に比較しても、各債務の独立性が高いといえる。

ところで、不真正連帯債務者の全員又は一部が破産の宣告を受けた場合、債権者は、その全額につき、各財団の配当に加入することができるのはいうまでもない。この場合に連帯債務以上にその独立性が強いとの理由により、破産法二四条の制約を受けることなく、一部弁済又は一部配当がなされたときでも、債権全額をもって配当加入をなしうる、という見解がある。(於保不二雄「債権総論(新版)」有斐閣法律学全集二〇、昭和四七年、二四八頁)。これ程に不真正連帯債務は強い独立性が認められているのである。

(三) 以上のとおりであるから、不真正連帯債務においては、他の多数当事者の債権関係である保証債務、連帯保証債務及び連帯債務においてと比較して、各債務者の債務は互いに独立かつ併立の関係にあり、それゆえ全部の債務者に対して責任追求を行うのか、あるいは、その一部の債務者のみを訴えるのかの判断及び選択は、いかなる意味でも完全に債権者の自由裁量にまかされなければならないのである。

2 債権者の選択の自由

また、どの債務者が実際の出損をなしたかは、被害者たる債権者の慰籍にとっても重要な意味を有することが多い。例えば、強姦の共同正犯事例において、見張りをやったものから賠償を受けるよりも、実際の実行行為を行なった者から被害弁償を受けてこそ、被害者の慰籍はなされるのである。実際問題、刑事裁判の量刑においても、被害弁償の金がどこからでたかは重要なファクターとなっている。

また、名誉毀損における個人的個別的な原状回復義務との関係でもこのように個別にすることが整合性もとれるものである。

名誉毀損においては、裁判所は損害賠償と共に名誉を回復するに適当な処分を命ずることができる(民法七一〇条、七二三条)。謝罪広告は個人の謝罪の意思の表明であり、きわめて個人的なものである。

本件では、債権者学校法人の二名の理事が、わざわざ債務者を訪問し、重ねて適切な事実の提供と説明を行なうとともに慎重に正しい記事を書くよう強く要請し、債務者も、その席では、慎重に再調査することを約しながら、結局、債権者側の説明及び要請を全く無視した本件記事を掲載したこと、しかも、債務者は、その後の新聞報道によって、本件記事が完全に虚偽のものであったことが判明したにもかかわらず、時間の猶予を求める「御回答」なる書面を送付したのみで何らの謝罪措置をも講ずることをしていないのであって、以上の点からみれば、債務者の本件行為は、明らかに確定的故意・悪意に基づくものであり、極めて悪質な中傷誹諦と断ぜざるをえない。かかる非倫理的な社会的行為を繰り返し行なっている債務者に対して、損害賠償の責任追求を行ってこそ、はじめて、債権者らの名誉感情は慰籍されるのである。

その点においても、被害者たる債権者の選択権を実質的に奪う結果となっている原審決定は不当である。

三 政策的妥当性

また、原審却下決定は名誉保護について政策的にも妥当でない結果を招来する。

近年の低俗な週刊誌等の氾濫の要因の一つに、実質的な不法行為者である編集者に対しては、発行者である出版社の使用者責任の陰に隠れて、ほとんど実質的な責任追求が行なわれていないこと、裁判所が命ずる慰謝料の額が、当該不法行為によって得られる利益に比して極端に小額であって、不法行為の続発に対する抑止効果を有しないことがあげられる。

このような抑止効果をあげるためには、編集者個人の責任追求は一つのありうべき選択と言える。

なお、平成四年一〇月一七日付読売新聞夕刊によれば、英国のエリザベス女王の二男アンドルー王子と別居中のセーラー妃(三二)は、一六日、八月英紙に掲載された米国人男性との抱擁写真を盗み撮りされたとして、この男性とともに、撮影者のイタリア人フリーカメラマンを相手に二二〇〇万フラン(約五億二八〇〇万円)の慰謝料を求める訴えをパリ郊外ナンテルの裁判所に提起している。プライバシー侵害と名誉毀損という点で異なるとはいえ、人格的利益の侵害という点では共通であり、また、実行行為者個人を標的とする点では、本件と同様である。これまた、被害者の自然な感情を反映した訴訟提起と言えよう。

このような選択を封じかねない原審決定は妥当でないことは明らかである。

四 他者の資力考慮をすべきでない事案であったこと

(一) 山崎潮・河合伸一編集「金融実務手続双書 仮差押え・仮処分」社団法人・金融財政事情研究会・平成四年三七頁には、保全の必要性につき、次のとおり詳しい分析がされている。

「24 主たる債務者の資力が十分である場合に連帯保証人にたいして仮差押えをすることができるか

1 連帯保証人に対して仮差押えをすることができる。

2 ただし、事情によっては仮差押えの必要性が否定され、仮差押えをすることが許されないこともある。

1、仮差押えの必要性とその判断の個別性

仮差押えはその必要性があるとき、すなわち「強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき」(民事保全法二〇条一項)に認められるものである。そして、強制執行は債務名義に示された債務者(ないし、その承継人)が個々に有する財産に対してなされるものであるから、その不能性ないし困難性もまた、将来強制執行を受けることになる債務者について、個別的にその責任財産の多寡、種類、散逸の可能性等が判断材料とされるのである。したがって、仮差押えの債務者が共同債務者の一人である場合であっても、仮差押債務者以外の者の資力等は本来、仮差押の必要性とは無関係であるといえる。

とくに、連帯保証人の場合には検索の抗弁権がない(民法四五四条)ので、主たる債務者に弁済の資力があって強制執行も容易であるのに、債権者がそれをすることなく、連帯保証人の財産に強制執行をしてきたとしても、連帯保証人はなんら異議を述べることはできない。それゆえ、主たる債務者の資力が豊かであっても、一般には、連帯保証人に対して仮差押えをすることが許される」

検索の抗弁権が認められるような場合には他の債務者の資力を考慮すべきであるが、そうでない場合には、他の債務者の資力は考慮すべきではない、というのが原則なのである。

これは、検索の抗弁の意義から見ても、明らかな道理である。

不真正連帯債務について検索の抗弁権を認めるかのような結果を本件決定は導いているのである。

さらに同書は続いて

「2、仮差押えの必要性が否定された事例

仮差押債権者が二番抵当権を有する不動産が競売に付され、仮差押債権者がその競落代金からほぼ確実に全額の弁済を受けることができると推定される場合において、連帯保証人に対する仮差押えの必要性を否定した判例(東京地判昭五〇・九・三判時八一四号一三〇頁)があるが、ごく近い将来において主たる債務者からの全額回収が確実視されるという特殊な場合についての判断というべきであろう。

ちなみに、約束手形の裏書人に対して十分な担保を有している場合において、振出人に対する仮差押えの必要性を認めた判例(東京高決昭六〇・三・二八金法一一〇〇号八三頁。ただし、主たる債務者と連帯保証人のような主従の関係がないことを理由としている)がある。」

としている。なお、東京高裁の昭和六〇年決定は、東高民報三六巻三号六七頁、判時一一五二号一四三頁、判タ五五六号一二〇頁でも取り上げられている有名判例である。

保全の必要性なしとした昭和五〇年の決定は、ごく近い段階で、しかも「主たる債務者」の不動産競売により、ほぼ確実に全額の弁済を受けることができるという極めて特殊な事案に関するものであって、本件とは全く事情を異にすることが明らかである。

また仙台高裁昭和六二年七月一五日決定金融商事判例七七八号三八頁は、自動車事故の被害者が加害者と保険会社に対して仮処分をかけようとしたときに、連帯債務者の一方が「金員を支払った」ときに、保全の必要性が消滅するとしたものである。

本件では、「主たる債務者」たる優先順位のあるものではないのであるし、他の連帯債務者たる株式会社講談社が債権の存在を認め、近い将来に任意に支払うことはとうてい予想できず、前記の東京地裁昭和五〇年決定や仙台高裁昭和六二年決定とは決定的に事情が異なる。

そして、債務について主従の関係はないのであり、むしろ前記の東京高裁昭和六〇年決定に近い事案というべきである。

(二) 使用者責任の構造について

原決定は使用者責任の構造を失念している。

原決定を正当化するとすれば、国家賠償責任と同様に、使用者責任の構造をとらえ、使用者の責任が終局的なものである、とするほかない。しかし、このような理解は使用者責任の構造を全く曲解するものである。

さらに付言すれば、国家賠償責任についてでさえ、公務員個人の責任を問うべきだ、という考えが立法論・解釈論においても公法学会では大勢になりつつあるのであり、国家賠償責任についてもかなり古い理論、あえて言えばドイツの一時期の特殊な理論を継受したものを墨守するものといえよう。

使用者責任は、民法七一五条の構造からも明らかなように、使用者は被用者の不法行為責任についてさらに監督責任を果たしたと認められない限り、連帯して責任を負うとしたものであり、最終的には被用者が負担すべきものなのである。

被害者保護を図るために法人に責任を認めたものであって、決して被用者の免責をも認めたものではない。

それは、使用者が債務を弁済した場合に被用者に対して求償が認められる(民法七一五条三項)ことからも明らかであろう。

しかも、本件においては、株式会社講談社は数多くの出版を行い、週刊現代と同性質の雑誌も数種類発行している。週刊誌は毎週発行されるもので、極めて迅速な編集・発行を不可欠とするものであるから、週刊誌の編集長は、記事の採否、内容決定、編集等につき実質的な権限を持っており、被用者というよりは、使用者に近い立場にある。使用者たる株式会社講談社の社長、取締役会等に図って発行しているとは考えられない。債務者は、債務者法人の理事等が事情説明を行ったとき、記事の採否や内容変更につき充分なる決定権限を持っていたものである。それにも拘わらず、敢えて、本件の記事のような悪意と虚偽に充ちた記事を掲載したのは、使用者たる株式会社や講談社の命令によったのではなく、債務者自身の判断によったものであり、債務者は、その判断に対して第一義的責任を負うべきである。

従って、原決定はいわば主たる債務者に請求したのに、連帯保証人が資力があるとして却下したようなものと言えよう。

(三) 掴取力について

債権者側からすれば、不真正連帯債務者のうち、誰に対して請求するかの選択の自由があるわけである。

そして、債権の内容については、給付保持力・請求力のほかにも強制執行を正当化するものとして掴取力が認められる(奥田昌道「債権総論[増補版]」悠々社・平成四年八一頁以下)。掴取力なき債権というのは、きわめて特殊な場合である。しかし、原決定は、債務者に対する強制執行自体の保全の必要性を全く検討すらせず、使用者の資力のみをとらえて、被用者に対する強制執行の準備を不可能ならしめたものであり、被用者に対して実質的に掴取力なき債権を認める結果をもたらしている。

これは、債権の概念からみて極めて異常な事態といいうる。

五 以上より、原審決定の不当性は明らかである。

よって、抗告の趣旨記載の申立に及ぶ。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例